賃料の増減請求はできる?事情変更の判断事例付き解説
基礎法理
借地借家法第11条(建物賃貸借の場合は第32条)などにより、賃貸借契約中であっても、土地又は建物の公租公課の増減、土地建物価格の変動、近傍同種の建物の賃料との比較、その他の事情の変更により、従前の賃料が「不相当」となったとき、賃貸人または賃借人は、将来に向かって賃料の増額または減額を請求できることとされています。
いわゆる「継続賃料(相当賃料)」の判断にあたっては、単に近傍の新規賃料水準に合わせるのではなく、従前合意の賃料額決定の事情(契約締結時の事情、賃借人の事情、当事者間の特殊関係など)や賃貸借関係の継続性、賃借人の既得利益などを尊重しつつ、事情変更の有無・内容を総合して判断されます。
したがって、当初から「割安」「割高」だったというだけでは足りず、直近合意後に事情の変更(経済事情、公租公課、建物価額、当事者間関係等)があることが必要となります。
事情変更を争点とし、継続賃料の見直しを認めた/争点になった判例の典型例としては次のようなものがあります。
最高裁(最高裁 平成5年11月26日 平成3年(オ)158)
貸主・借主の間に代表者の共通などの密接な人的関係があり、その関係を前提に「相手方を支える」趣旨も込めて、地代が周辺相場より高めに設定されていた事案です。ところが人的関係が希薄化・解消した後、当初の前提が崩れたとして借主が減額を求めました。最高裁は、事情変更は地価・物価などの経済事情に限られず、当初の地代決定で重要だった個人的事情(人的関係)の変化も含み得ると示し、減額を認めた判断を維持しました。
東京高裁(東京高裁 平成18年11月30日 平成18年(ネ)第2098)
当初の賃貸借では、当事者間の親族関係や関連会社関係といった「特殊な人的関係」が背景にあり、その事情を織り込んで賃料が周辺の一般的水準よりも低めに設定されていました。その後、建物の譲渡などにより賃貸人が交代して当初の人的関係が実質的に解消したため、新たな賃貸人が借地借家法32条に基づき賃料の増額を求めた事案です。争点は、人的関係を前提とした低額設定という事情が消滅したことを「事情変更」として増額請求できるのか、また増額が認められるとしても、従前の賃料から市場水準へ一気に引き上げてよいのか、という点でした。裁判所は、低額だった理由が当事者間の特殊な人的関係にあることを認め、賃貸人交代に伴ってその特殊事情が消滅し得る以上、事情変更に当たり得ると判断しました。他方で、たとえ一般的な水準との差が大きくなっていたとしても、特殊事情の消滅を理由に直ちに通常の相場水準まで増額するのは相当ではないとして、公平の観点から、従前賃料と新規の適正水準との間でバランスをとった「中間的な水準」(継続賃料)を相当賃料として定め、段階的・抑制的な改定の必要性を示しました。なお、固定賃料と売上歩合などの変動賃料を組み合わせる“併用型”の賃料形態では、想定していた売上や収益構造が崩れた場合、当初の賃料決定の前提がどこまで事情変更として評価されるか、また相当額をどう算定するかが争点になりやすく、郊外型大型店舗などでも同種の紛争が見られます。
大阪高裁(大阪高裁 平成30年6月28日 平成29年(ネ)1278)
ショッピングセンター内の一部区画の建物賃貸借において、賃料が「一定の固定部分」と「売上に連動する歩合部分」を組み合わせた形で定められていたところ、想定していた売上水準に達せず歩合部分が実質的に機能しない状態が長期間続いたことなどから、従前の賃料が相当かどうかが争われた事案です。契約の途中で固定部分を引き下げる合意がなされていたものの、その合意が暫定的・限定的な性格を有していたことも踏まえつつ、裁判所は、歩合が発生しない状況の継続、同一施設内における他テナントとの賃料バランスの崩れ、共益費等の負担増といった事情を総合して「事情変更」を認め、賃料体系そのもの(固定+歩合)を作り替えるのではなく、複数の算定視点を突き合わせて「全体としての妥当額(相当賃料)」を導きました。その際、当初の賃料水準と新たに見込まれる適正水準との隔たりをどのように配分するかという考え方(差額配分の発想)を中核に据え、結果として従前より高い水準の相当賃料を認定しています。また一般論として、賃借人の経営状況それ自体は事情変更の理由になりにくい一方で、本件のように当事者が特定の売上高を見込んで賃料を設計していたなど、賃料決定の経緯に照らして考慮すべき事情がある場合には、実際の売上が想定と大きく異なったことも、事情変更を基礎づける要素になり得ることが示唆されます。
相当賃料(継続賃料)査定のポイント
・継続賃料の鑑定評価では、単に近隣の新規事例の賃料(新規賃料)を参照するだけでなく、
当該賃貸借契約の経緯(契約締結時、前回改定時の事情)を精査することが重要です。
・事情変更として主張される事由(公課・土地建物価値の変動、用途変更、当事者の関係性、事業内容の変化など)が、当初の賃料決定時にどのように考慮されていたかを、契約書・交渉経緯・当時の事情などから明らかにすることも同様にポイントとなります。
・定期借家契約や「賃料増減しない」旨の特約がある場合でも、事情変更の程度・内容次第では、特約に拘束されないとして見直しが認められた例があることに留意する必要があります。
賃貸人(地主)側の実務ポイント
上記の賃料査定のポイントを評価に適切に反映するためには、賃貸人の方々には次のようなことに留意することをおすすめします。
“いま”の記録が未来を助けます
売上や来客数、共益費の推移、近隣相場の情報をこまめに残すと、事情変更の有無を説明しやすくなります。
・契約の“想定”は文章で
歩合の発生条件や下限、再協議のきっかけなど、ルールの書きぶりを見直しておくと、後の話し合いがスムーズです。
・数字は“複数の物差し”で
相場や投資回収などいくつかの見方で確かめ、無理のない着地点を探る姿勢が大切です。

