【租特法40条・不動産の寄付】「タダで贈与する」のになぜ不動産鑑定評価が必要なのか?税務の仕組みと注意点を解説
「所有している土地を、お世話になっている社会福祉法人(または公益法人など)へ無償で寄付したい」
社会貢献や地域支援の素晴らしい取り組みですが、手続きを進める中で「時価の証明のために、不動産鑑定評価書を提出してください」と専門家から言われ、驚かれるオーナー様は少なくありません。
「売却するわけでもなく、タダであげるだけなのに、なぜお金をかけて不動産鑑定をする必要があるのか?」
この記事では、不動産の寄付(贈与)に潜む税務上の仕組みと、不動産鑑定評価が不可欠となる具体的な理由について解説します。
1. 個人(寄付者)側の事情:「みなし譲渡所得税」という罠
「タダであげるのだから、贈与税も所得税もかからないはずだ」と考えがちですが、日本の税法ではそうはいきません。
個人から「法人」へ不動産を寄付する場合、税法上は「時価で売却して得た利益を、そのまま法人に寄付した」とみなされます(所得税法第59条「みなし譲渡所得」)。
つまり、お金を1円も受け取っていないにもかかわらず、購入時よりも土地の値上がりが大きかった場合、寄付した側の個人に多額の「所得税(みなし譲渡所得税)」が課されてしまうのです。
【救済措置】租税特別措置法第40条の非課税特例
この税負担を回避するために用意されているのが、「租税特別措置法第40条(租特法40条)」の特例です。 社会福祉法人や学校法人、公益法人などに対する寄付について、国税庁長官の承認を受けることで、みなし譲渡所得税を「非課税」にすることができます。
なぜ、ここで「不動産鑑定」が必要なのか?
租特法40条の非課税申請を行うためには、「寄付する不動産の適正な時価」を税務署に対して証明しなければなりません。
路線価や固定資産税評価額で代用しようとすると、実際の市場価値(時価)と乖離があるとして税務署に否認されるリスクがあります。特例の承認を得て非課税にしてもらうための「確実な通過手形(エビデンス)」として、国家資格者である不動産鑑定士による評価書が事実上必須となるのです。
2. 万が一に備えるリスク管理:非課税承認の取消リスク
租特法40条の非課税承認は、申請して終わりではありません。寄付を受けた法人が「原則として2年以内にその不動産を直接事業の用に供する」といった厳格な要件が定められています。
もし寄付後に法人の事情が変わるなどして要件を満たせなくなり、非課税承認が取り消された場合、寄付した個人に対して即座に「寄付当時の時価」を基準とした課税が行われます。
その際、当時の「適正な時価」が不動産鑑定書で客観的に証明されていなければ、税務署側の想定価格(不当に高く見立てられた価値など)で追徴課税されてしまう恐れがあります。自身(またはクライアント)の資産を守るリスクヘッジとしても、事前の時価確定が極めて重要です。
3. 受贈者(法人)側の事情:厳格な会計ルールと行政報告
不動産を受け取る法人(社会福祉法人や公益法人など)にとっても、適正な時価の把握は絶対条件です。
たとえば社会福祉法人の場合、「社会福祉法人会計基準」に基づき、寄付された不動産を「受贈時の公正な評価額(時価)」で会計帳簿(固定資産)に計上しなければなりません。
行政(都道府県や市区町村)による監査を受ける立場にある法人にとって、「概算でこれくらい」という曖昧な評価での資産計上は許されず、理事会での承認や行政報告に耐えうる「客観的で第三者的な証明(鑑定評価書)」が強く求められます。
4. 特に注意が必要な「複雑な不動産」のケース
次のような特性を持つ不動産を寄付する場合、税務上の時価判定はさらに難易度が上がります。
- 農地・農振除外地: 現況は農地であっても、将来的に転用可能な「宅地見込地」としてのポテンシャルがある場合、単なる農地価格では認められないことがあります。
- 無道路地・不整形地: 建築基準法上の道路に接していない土地などは、評価額の減価(下げ幅)をどうロジカルに証明するかがポイントになります。
- 隣接不動産への寄付(併合利用): 隣接地と一体化することで利便性が飛躍的に向上する場合、「限定価格(併合価値)」の考慮が必要になるケースがあります。
路線価や一律の控除計算だけで税務申告を行うと、過大評価・過少評価によって税務署からの指摘や否認トラブルに発展する危険性があります。
まとめ:税務トラブルを防ぎ、安心して社会貢献を行うために
「無償で譲渡する(寄付する)」という一見シンプルな取引であっても、対法人の不動産移動には「みなし譲渡所得税」「租特法40条の特例」「法人会計上の時価計上」という高度な税務・会計の仕組みが絡み合っています。
税務署への明確な説明責任を果たし、寄付する側・される側の双方を守るためには、不動産鑑定士による適正な時価評価が欠かせません。
士業(税理士・司法書士等)の先生方・不動産オーナー様へ
当社では、租特法40条申請や法人への寄付・現物出資に伴う不動産鑑定評価を多数手がけております。難易度の高い土地(無道路地・農地・変形地等)の評価や、税務要件を踏まえた評価書の作成でお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

