相続税評価の“原則と例外”
— 評価通達と「6項」、そして鑑定評価の出番 —
1. 相続税評価の大原則
相続税法は、課税価格を**取得時の「時価」で捉える立て付けです(相続税法22条)。
もっとも、時価は一義に定まらないため、実務では財産評価基本通達(評価通達)**という“全国共通の物差し”で画一評価を行うのが原則です。画一評価を採る理由は次のとおりです。
● 個別評価だと方法や資料選択により値がぶれやすい。
● 課税庁の事務負担が増大し、迅速な処理が困難。
● あらかじめ定めた方法で画一評価する方が、納税者間の公平・利便・徴税費用の観点
から合理的。
このため、課税庁だけでなく納税者側も通常は評価通達に従うのが実務慣行です。
2. 例外を許す「評価通達6項」
しかし、形式的な平等を貫いた結果、かえって実質的な負担の公平を著しく害する場合があります。
この“ズレ”に対処するため、評価通達6項は次のように定めます。
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」
趣旨は明快で、画一評価で時価から大きく外れるなら、個別事情に即した合理的な方法で補正せよ、という“安全弁”です。
3. 「特別の事情」=6項の適用場面
判例・裁決は概ね、次のような整理に立ちます。
● 原則:評価通達による画一評価。
● 例外:特別の事情があり、通達評価が著しく不適当なときは、**他の合理的な時価評価方法(有力候補:不動産鑑定評価)**を採用しうる。
先行研究の整理(山田將重ほか)を踏まえると、判断の骨格は概ね次の4点に集約できます(相互に関連し合う基準)。
- 通達評価の合理性欠如(画一適用が時価から外れる事情がある)
- 他の合理的評価方法の存在(鑑定評価など)
- 価額の著しい乖離(通達評価と他法の差が大きい)
- 納税者の行為の存在(租税回避的行為の有無等を含め事情関係を検討)
4. 佐賀で“6項・特別の事情”を検討しやすい例
画一的な補正では市場が織り込む減価を取り切れない典型として、次が挙げやすいです。
●接道・道路要件の不充足(間口2m未満、建基法42条非該当、無道路、階段状前面等)
●形状・規模等による実効価値の目減り(極端な不整形、過度の奥行、段差(高低差)、地積規模大、路地状)
●規制・リスクによる減価(市街化調整区域内の山林・雑種地・農地等、土壌汚染・埋蔵文化材・地下埋設物、特別警戒区域等)
このうち、段差(高低差)については、接面道路との高低差と敷地内における高低差の2つのケースが考えられます。
また、土砂災害の特別警戒区域(レッドゾーン)については、山間部地域に隣接している宅地地域で当てはまるケースが多く、県内の唐津市、武雄市、伊万里市、嬉野市などでは、各市内該当する区域が比較的多くなっています(これら各市に限らず、他の市町でも少なからず該当エリアは存在します)。
これらは単発の場合もありますが、複合で効くこともあり、通達補正のレンジを越える市場ディスカウントが生じやすい領域です。
5. まとめ
● 原則は評価通達、例外は「特別の事情」を伴う6項+合理的評価(鑑定)。
● 例外適用の鍵は、通達評価が時価から外れる具体的理由を、高品質な鑑定で可視化し、価額乖離の有意性を一次情報で示すことです。
●佐賀では、接道・形状・規模・規制・リスクの複合要因に該当する案件が、検討余地大です。

