【事例考察シリーズ③】借地上の建物「共有持分」の買取請求権は成立するか? ~最高裁初判断(令和6年(受) 第2169号)が不動産鑑定評価に与える影響~
2026年(令和8年)8月28日、最高裁判所第二小法廷において、借地・底地実務および不動産鑑定評価の実務に多大な影響を与える重要な判決が下されました。
本コラムでは、「借地上の建物の共有持分のみを取得した者が、地主に対して借地借家法14条に基づく建物買取請求権を行使できるか」という争点についての最高裁初判断の内容を解説し、今後の不動産鑑定評価における留意点を考察します。
1. 事件の概要と最高裁判決の結論
事案の背景は、借地上の区分所有建物が相続により4人の共有状態となった後、不動産会社がそのうちの3人から合計4分の3の共有持分を買い取ったというものです。不動産会社は地主に借地権譲渡の承諾を求めましたが拒否されたため、借地借家法14条に基づき、約2,700万円で自身の共有持分を買い取るよう地主を提訴しました。
【最高裁の結論】
借地上の建物の「共有持分」については、借地借家法14条に基づく建物買取請求権は行使できない。
最高裁は、主に以下の2点を理由として、買取請求を否定しました。
●地主への不当な不利益: 建物全体を買い取る場合は地主が自由に処分・再利用できるが、持分のみを強制的に買い取らされると、地主は他者(残りの共有者)との共有関係に巻き込まれ、投下資本の回収や不動産の自由な処分が著しく制限される。
●他の資金回収手段の存在: 共有持分を取得した者は、「共有物分割請求」の手続きを通じて資金を回収する途が残されているため、地主に買い取らせて救済する必要性に乏しい。
2. 不動産鑑定評価への重大な影響
この最高裁決定は、単なる法解釈にとどまらず、不動産鑑定評価の実務(特に借地権、底地、借地権付建物の評価) における前提を大きく覆すものです。従来、「最悪でも買取請求権を行使して地主に買い取らせることができる」という、いわば出口戦略の存在が、共有持分の経済的価値を裏付ける一つの要素となっていました。
(1) 借地権付建物の「共有持分」の評価
今後、借地上の建物の共有持分の評価においては、市場性の減価を従来よりも厳格に見積もる必要があります。
買取請求権という強力な形成権が及ばないことが確定したため、第三者にとって当該持分を取得するリスクは著しく増大しました。したがって、対象不動産の市場価値(正常価格)を求める際、流動性低下に伴う市場性減価 (AV)は、従前の水準を大きく上回るものと判定されるべきです。
(2) 底地の評価に対する影響
一方で、底地権者(地主) 側から見れば、不本意な共有関係を強制されるリスクが一つ排除されたことになります。底地の評価において、借地上の建物が共有状態である場合の底地価格は、地主の不利益リスクが低下した分、相対的に安定した評価となる可能性があります。
(3) 借地権割合と残存期間の考慮
買取請求が否定された持分取得者は、共有物分割請求へ移行することになります。しかし、借地上の建物の競売等は権利関係が複雑であり、現実的な資金回収には時間と費用を要します。鑑定評価のシナリオ分析においては、この法的ハードルを踏まえた期間収益の現在価値への割り戻し(割引率の査定)をより慎重に行う必要があります。
3. 不動産業者・投資家の皆様へのアドバイス
近年、相続で共有状態となった不動産の持分のみを買い取るビジネスが活性化していましたが、借地案件に関しては、本判決により従来の手法が通用しなくなりました。
【今後の対応のポイント】
借地上の建物の共有持分を取得・売買する際は、「事前に地主からの承諾を得られるか」が絶対的な前提条件となります。
事前の承諾がない限り、借地借家法19条の「承諾に代わる許可」を元の持分権者(売り手)が申し立てる等、買取請求以外のスキームをあらかじめ構築しておく必要があります。
当社では、最新の判例動向を的確に反映した精度の高い不動産鑑定評価を提供しております。借地権や底地、共有不動産の評価・売買でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

